プラトン『国家』第2巻(後半)〜第3巻

第2巻前半で、正義についての議論でグラウコンとアデイマントスに詰め寄られ、「個人の正義について考える前に、国家の正義について考えてみよう」という提案で難所を切り抜けたソクラテス。

第2巻後半からは、正義の国家とはどんなものか、について考えることとなります。

 

1.分業

まず、ソクラテスは最小の国家を想像します。ソクラテスは、衣食住に必要な最低限を揃えるためには、食べ物を作る農民、家を建てる大工、服を作る織物工、その他必要品を作る人の4〜5人がいれば最低限の国家が成り立つと述べます。

 

そして、農民なら農業、大工なら大工の仕事というように、それぞれが自分の仕事をこなす分業体制をとることで、国家が効率的になると説きます。非常に説得力ある主張です。

 

ただし、ソクラテスは分業が効率的になる理由として、各自が作業に集中できるということよりも、個々人に向き不向きがあるから、ということを重視します。ここが後々重要になってきます。

 

さらにソクラテスは国歌の規模をたんだんと大きくして考えていきます。農業をよりよく行うには農具が必要になり、その道具を作る人間が必要になります。その他にも食卓のおかずを増やしたり、ベッドなどの日用品を増やしたりしようとすると、それを生産する人が必要になり、それだけ領地も拡大する必要が生じます。

 

そうすると、やがて他国と領地の奪い合いとなり、戦争につながります。戦争のためには軍隊が必要となり、軍隊となって戦う軍人が必要となります。

 

2.正しい神話

ソクラテスは、この軍人たちを含む、国家の「守護者」が重要であり、独特の方法で幼少期から育成されなければならないと主張し、話題が守護者の育成方法に移ります。

 

面白いのはソクラテスがギリシャ神話を徹底的に批判するところです。ギリシャ神話では神々も多くの欠点を持っていて、神々が親子で争ったり、とてつもない方法で浮気したり、所構わず男女で交わったりして、現代の我々からみると、めちゃくちゃな展開が少なくありません。

 

しかし、それを当の古代ギリシャ人たるソクラテスが、こんな話を子どもたちが聞いたら真似してしまうと言って、こてんぱんにこき下ろすとは、ギリシャ人も我々と同じ感覚だったのかもしれません。

 

3.優生思想

この他にも、音楽は勇気を鼓舞するようなもの以外は禁止だとか、食事も素朴なものでないといけないとか、いろいろと提案をするのですが、中でもひどいのは、医術についての提案です。

 

ソクラテスは「生まれつき身体が弱く、病気が完治しないような患者は、治療の必要がなく、その子どもも産ませるべきでない」と述べ、「そのような患者は生きるに値しない」とまで言います。

 

さらに、少し先取りすると、第5巻で、ソクラテスは「優秀な男女同士はたくさん子どもをもうけるべきであり、劣った男女はあまり子どもを産むべきでない」とか、「劣った者の子どもや障害を持った子どもは秘密のうちに隠しさってしまえ」などということまで述べます。

 

これは現代からみたら人権侵害の極みとしか思えませんが、聞き役のグラウコンが何の異議も挟まずに同意していることから考えると、当時としては突飛な考えではなかったのかもしれません。

 

ちなみに、ソクラテス(プラトン『国家』の主人公としてのソクラテス)がここで主張したことを本当に実施した国があります。それは20世紀のナチス・ドイツです。ナチスはユダヤ人虐殺で有名ですが、迫害されたのはユダヤ人だけではありませんでした。病人や同性愛者、労働忌避者なども強制収容所での「処分」の対象となりました。

 

実際、プラトンの思想がナチスのイデオロギーの補強となっているという批判は第二次大戦当時もあったようです。